をふるわす。」「舌を巻く。」「舌そよぐ。」

     まんざい

 私のいう掛合いまんざいとは、たとえば、つぎの如きものを指して言うのである。
 問。「君はいったい、誰に見せようとして、紅《べに》と鉄漿《かね》とをつけているのであるか。」
 答。「みんな、様《さま》ゆえ。おまえゆえ。」
 へらへら笑ってすまされる問答ではないのである。殴るのにさえ、手がよごれる。君の中にも!

     わが神話

 いんしゅう、いなばの小兎。毛をむしられて、海水に浸り、それを天日でかわかした。これは痛苦のはじまりである。
 いんしゅう、いなばの小兎。淡水でからだを洗い、蒲《がま》の毛を敷きつめて、その中にふかふかと埋って寝た。これは、安楽のはじまりであろう。

     最も日常茶飯事的なるもの

「おれは男性である。」この発見。かれは家人の「女性。」に気づいてから、はじめて、かれの「男性。」に気づいた。同棲《どうせい》、以来、七年目。

     蟹《かに》について

 阿部次郎のエッセイの中に、小さい蟹が自分のうちの台所で、横っ飛びに飛んだ。蟹も飛べるのか、そう思ったら、涙が出たという文章があっ
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