その根元に於いて、相違って居るものである。厳酷、その奥底には、人間の本然《ほんねん》の、あたたかい思いやりで一ぱいであるのだが、冷酷は、ちゃちなガラスの器物の如きもので、ここには、いかなる花ひとつ、咲きいでず、まるで縁なきものである。
わがかなしみ
夜道を歩いていると、草むらの中で、かさと音がする。蝮蛇《まむし》の逃げる音。
文章について
文士というからには、文に巧みなるところなくては、かなうまい。佳き文章とは、「情|籠《こも》りて、詞《ことば》舒《の》び、心のままの誠《まこと》を歌い出でたる」態のものを指していう也《なり》。情籠りて云々は上田敏、若きころの文章である。
ふと思う
なんだ、みんな同じことを言っていやがる。
Y子
そのささやきには真摯《しんし》の響きがこもっていた。たった二度だけ。その余《よ》は、私を困らせた。
「私、なんだか、ばかなことを言っちゃったようね。」
「私にだって個性があるわよ。でも、あんなに言われたら黙っているよりほかに仕様がないじゃないの。」
言葉の奇妙
「舌もつれる。」「舌の根
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