のみごとなる文章の行く先々を見つめ居る者、けっして、私のみに非ざることを確信して居る。
健康
なんにもしたくないという無意志の状態は、そのひとが健康だからである。少くとも、ペエンレッスの状態である。それでは、上は、ナポレオン、ミケランジェロ、下は、伊藤博文、尾崎紅葉にいたるまで、そのすべての仕事は、みんな物狂いの状態から発したものなのか。然《しか》り。間違いなし。健康とは、満足せる豚。眠たげなポチ。
K君
おそるおそる、たいへんな秘密をさぐるが如き、ものものしき仕草で私に尋ねた。「あなたは、文学がお好きなのですか。」私はだまって答えなかった。面貌だけは凛乎《りんこ》たるところがあったけれど、なんの知識もない、十八歳の少年なのである。私にとって、唯一無二の苦手であった。
ポオズ
はじめから、空虚なくせに、にやにや笑う。「空虚のふり。」
絵はがき
この点では、私と山岸外史とは異るところがある。私、深山のお花畑、初雪の富士の霊峰。白砂に這《は》い、ひろがれる千本松原、または紅葉に見えかくれする清姫滝、そのような絵はがきよりも浅草
前へ
次へ
全47ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング