全き放心の後に来る、もの凄《すさま》じきアンニュイを君知るや否や。

     世渡りの秘訣

 節度を保つこと。節度を保つこと。

     緑雨

 保田君曰く、「このごろ緑雨を読んでいます。」緑雨かつて自らを正直正太夫と称せしことあり。保田君。この果敢なる勇気にひかれたるか。

     ふたたび書簡のこと

 友人にも逢わず、ひとり、こうして田舎に居れば、恥多い手紙を書く度数もいよいよしげくなるわけだ。けれども、先日、私は、作家の書簡集、日記、断片をすべてくだらないと言ってしまった。いまでも、そう思っている。よし、とゆるした私の書簡は私の手で発表する。以下、二通。(文章のてにをはの記憶ちがいは許せ。)
 保田君。
 ぼくもまた、二十代なのだ。舌焼け、胸焦げ、空高き雁《かり》の声を聞いている。今宵、風寒く、身の置きどころなし。不一。
 さらに一通は、
(眠られぬままに、ある夜、年長の知人へ書きやる。)
 かなしいことには、あれでさえ、なおかつ、狂言にすぎなかった。われとわが額を壁に打ちつけ、この生命《いのち》絶たむとはかった。あわれ、これもまた、「文章」にすぎない。君、僕は覚悟し
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