ろには
 鬼が棲《す》むか
 あああ
 蛇《じゃ》が棲むか
 とかいうような悲歎には、革命思想も破壊思想も、なんの縁《えん》もゆかりも無いような顔で素通りして、そうして女房ひとりは取り残され、いつまでも同じ場所で同じ姿でわびしい溜息《ためいき》ばかりついていて、いったい、これはどうなる事なのでしょうか、運を天にゆだね、ただ夫の恋の風の向きの変るのを祈って、忍従していなければならぬ事なのでしょうか。子供が三人もあるのです。子供のためにも、いまさら夫と、わかれる事もなりませぬ。
 二夜くらいつづけて外泊すると、さすがに夫も、一夜は自分のうちに寝ます。夕食がすんでから夫は、子供たちと縁側で遊び、子供たちにさえ卑屈なおあいそみたいな事を言い、ことし生れた一ばん下の女の子をへたな手つきで抱き上げて、
「ふとっていまチねえ、べっぴんちゃんでチねえ。」
 とほめて、私がつい何の気なしに、
「可愛いでしょう? 子供を見てると、ながいきしたいとお思いにならない?」
 と言ったら、夫は急に妙な顔になって、
「うむ。」
 と苦しそうな返事をなさったので、私は、はっとして、冷汗の出る思いでした。
 うちで寝る
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