いけないんだ、革命の本質というものはそんな具合いに、かなしくて、美しいものなんだ、そんな事をしたって何になると言ったって、そのかなしさと、美しさと、それから、愛、……」
 フランスの国歌は、なおつづき、夫は話しながら泣いてしまって、それから、てれくさそうに、無理にふふんと笑って見せて、
「こりゃ、どうも、お父さんは泣き上戸《じょうご》らしいぞ。」
 と言い、顔をそむけて立ち、お勝手へ行って水で顔を洗いながら、
「どうも、いかん。酔いすぎた。フランス革命で泣いちゃった。すこし寝るよ。」
 とおっしゃって、六畳間へ行き、それっきりひっそりとなってしまいましたが、身をもんで忍び泣いているに違いございません。
 夫は、革命のために泣いたのではありません。いいえ、でも、フランスに於《お》ける革命は、家庭に於ける恋と、よく似ているのかも知れません。かなしくて美しいものの為に、フランスのロマンチックな王朝をも、また平和な家庭をも、破壊しなければならないつらさ、その夫のつらさは、よくわかるけれども、しかし、私だって夫に恋をしているのだ、あの、昔の紙治《かみじ》のおさんではないけれども、
 女房のふとこ
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