らゐではすまない大きな蠱惑や侮辱が絶えず攻めよせて來る。時折は而かもほんとに癪に觸つて僕も一ばんその中で戰つてみせてやらうかと言ふ樣なむら氣が起る。しかしそれは僕等の生命が三つも四つもあつた時のことで、たつた一つしかない短い生命はそんな無意味なことに費してはならぬ。僕等は本當のものを掴まねばならぬ。すこしの妥協も拗氣もない眞摯に生きなければならぬ。眞に自分の滿足するものを創出せねばならぬ。そんな時に自然はいい僕等の指導者である。
 君の詩は、恰もその自然の一片として生きてゐる。君の詩には詩人の詩臭[#「詩臭」に傍点]ともいふべきものが無い。そして君ほど詩人の中で近づきやすく親しい感じをもつたものが何處にあるか。それは前の詩集に於いても今の詩集に於ても同じだ。君の前の詩集を難解だと云ひ、君が此の詩集にあつめたやうな詩に對して奇蹟的の轉回だと云ふものがあるが、僕にとつては前の詩と最近の詩と、そのあひだに少しの差違もない。ちがつたとすれば君が或は感覺に或は直觀に、到るところ君の體驗を燃燒せしめつつあるのを外面的に見たからだらう。僕等の弱いそして傷き易いこころは或る時は悲めるものの※[#「土へ
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