風は草木にささやいた

土田杏村

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)特異《ユニイク》

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(例)※[#「走にょう+兪」、117−下−18]
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 山村君
 君と僕とは如何なる不思議の機縁あつてか斯くも深いまじはりに在り、君のその新しい詩集の一隅にいまは僕の言葉がつらなることとなつてゐる。おそらく君は僕を一評論家と遇して何事をか述べさせようとするのではなからう。僕もまた文壇に立つものの一人として君の詩集にむかはうとは思はない。君の生活は僕にとつてはあまりに嚴肅であり、君の詩は僕にとつてはあまりに尊貴であるが故に、僕は幾分でもかの評論家の態度に於て君に對することを恥ぢてゐる。而もかの唐土の一詩人がつねにその詩を街上の老嫗にもたらした雅量をもつて君が僕の言葉にきかれるならばそれは僕の幸福といふものだ。

 君の詩について僕がなにごとかを言ふのはこれで三度目だと思ふ。はじめは「第三帝國」で「新文藝の理想を提唱す」の一ぺんを書き、僕
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