のだ。雑誌も東京から京都へ移る時、必要がないと思つて売り払つたものに今必要となつて一生懸命で集めてゐるものがあるので、今はたとへいらないと思つても成るべく捨てないやうにしてゐるのだ。
 この書物の整理が大変である。雑誌の整理などはみな妻がやつてくれる。私は何処にどの雑誌があるかさつぱり知らない。自分は趣味がどしどし変るから、今面白いと思つてやつてゐる仕事の本はよく整理するが、それよりも大変なのは、これらの書物を買ふ資力だ。よくも自分の力でこれだけ買へたものだと自分でも感心する時がある。妻にも始終叱られてゐる。昨日の勘定日にも妻が会計簿を持つて来て、今月の本代が二百三十円、こんな放蕩息子がゐたら早速放逐になるところですよといふのである。その外にまだ百円余の支払が出来ないで借りにして置いたのだから大変である。だから私が本を買ふ時の焦慮苦悶は大したものだ。買はうか買ふまいかと苦悶した結果、さて買はないことにきめた時の私の顔は世にも類例のない寂しいもののさうである。画集には二三百円のものが少なくない。『座右宝』位なら自分でも買つてゐるのだが、その二三百円のものを二三種、本屋が持つて来て置いて行
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