私の書斎
土田杏村

 標題だけは書いたが、さて何を書いて見ようといふ案もない。ただ自分も一介の読書生として、終日この書斎の中に籠居してゐるとでも書けばよいのであらうか。
 私の書斎、先づ大いさを言へば、四畳半、六畳、十畳の三室から出来てゐる私の家――といつても野の中の極めて小さいものだが、その全面積の約半ばが私の書斎だといふ訳である。本来この家を建てる時に私は京都の郊外もうんと離れたところに、他から読書執筆の妨げを受けないやうにといふことを考へてゐたのだ。随つて書斎はまた家の人達の住んでゐる処から話声の聞えない処へと選んで別構へにして建てた。始め二室から出来た洋館だつたが昨年十畳一室を増築した。ベッドをここへ置いて、今では終日をその中に籠居してゐる。桜井祐男君の拙宅への訪問記を見ると、「ブリキ屋根が見える」と書いてあるが、ブリキではなくて浅野スレートの屋根なのだ。もう一つ序でに言ふと桜井君は田の中に小さな雑木林があつてその中に拙宅が建つてゐるやうに言つてあつたが、これも雑木林ではなく、後で植ゑた拙宅の庭木なのだ。ただ植木師などを入れないで伸び放題にしてあるものだから雑木林にして了はれ
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