る。他の某君の訪問記には、病み上りの頭髪のやうだと書いてあつたが、いかにもその通りである。
 書斎の中には書物が雑然と置かれてゐる。最初私は四畳半を応接室に使つてゐたのだが、書物の置場に窮するとそんな悠長なことは言つてゐられない。ここには書架を二つ置き、周囲の壁には出来るだけ多くの棚をつくつて全然の書庫にして了つた。下にも雑然と書物を置いてある。六畳の室は書斎にも応接室にも書庫にも使つてゐる。狭いこと甚だしい。十畳の室はベッドを置いて全く私の居室だ。近来はこの室をおもに書斎として使つてゐる。書物はどの室にも詰まるだけ詰まつたので、次第に廊下を侵蝕し、他の居室を侵蝕し、寝室の床の間の上まで書物の山積となつて了つた。起きるも寝るも書物の中に埋まつてゐるのは愉快なことでなく、さつぱりした一室を欲しいと思つてゐるが、そんな贅沢などはとても言へないのである。
 自分は五六の店から書物を買つてゐる。洋書は丸善で隔日位に葉書で新刊書をしらせてくれる。支那の本は彙文堂の目録で持つて来て貰ふ。邦文書は三四の小売店が競争で持つて来てくれるから先づ心配はない。その中一軒は美術書専門で始終新らしいものを持つて
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