伝」は太字]も亦イエスの言行を伝うるに方《あたり》て来世を背景として述ぶるに於て少しも馬太伝に譲らないのである、医学者ルカに由て著わされし路加伝も亦他の福音書同様著るしく奇蹟的であって又来世的であるのである、イエスの出生に関する記事は措いて問わずとして、天使がマリヤに伝えし
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彼(イエス)はヤコブの家を窮《かぎり》なく支配すべく又その国終ること有《あら》ざるべし
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とある言は確かにメシヤ的即ち来世的の言である(一章三十三節)、神の言葉として是は勿論追従の言葉ではない、又比喩的に解釈せらるべきものではない、何時か事実となりて現わるべき言葉である、然るに今時《いま》は如何と云うに、イエスの死後千九百年後の今日、彼は猶太人全体に斥けられこそすれ「ヤコブの家を窮なく支配す」と云いて猶太人の王ではないのである、又「その国終ること有らざるべし」とあるも実はキリストの国と称すべき者は今日と雖も未だ一もないのである、基督教国基督教会孰れも皆な名のみのキリストの国である、真実のキリストは彼等に由て涜《けが》され彼等の斥くる所となりつつあるのである、依て知る路加伝冒頭の此一言も亦未来を語る言[#「未来を語る言」に傍点]として読むべきものであることを、イエスは第二十世紀の今日今猶お顕わるべきものである、彼の国は今猶お臨《きた》るべき者である、而して其の終に臨るや、此世の国と異なり百年や千年で終るべき者ではない、是は文字通り永遠に継続《つづ》くべき者である、而して信者は忍んで其建設を待望む者である。
 同三章五節、六節に於てルカは預言者イザヤの言を引いて曰うて居る、曰く
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諸《すべて》の谷は埋られ、諸の山と崗とは夷《たいら》げられ、屈曲《まがり》たるは直くせられ、崎嶇《けわしき》は易《やす》くせられ、諸の人は皆神の救を見ることを得ん
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と、大切なるは後の一節である、「諸の人」即ち万人《よろずのひと》は神の救を見ることを得んとの事である、是未だ充たされざる預言であって、キリストの再現を俟ちて事実として現わるべき事である、全世界に今や三億九千万の基督信者ありとのことなれども是れ世界の人口の四分の一に過ぎない、而して四億近くの基督信者中其の幾人が真に神の救を見ることを得しや知る人ぞ知るである、而して「諸《
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