鳥《とり》や獣《けもの》のいうことがわかるのです。相手《あいて》の気持《きもち》をのみ込《こ》むのには、お互《たがい》に仲《なか》よくし合うことが何《なに》よりです。
今日《きょう》も、ローズ・ブノワさんは読方《よみかた》で習《なら》ったところをちっとも間違《まちが》えずに諳誦《あんしょう》しました。それで、いいお点《てん》をいただきました。エムリーヌ・カペルさんも、算術《さんじゅつ》の時間《じかん》がよく出来《でき》たので、いいお点《てん》をいただきました。
学校から帰《かえ》って来《く》ると、エムリーヌ・カペルさんは、いいお点《てん》をいただいたということをお母さんにお話《はな》ししました。それから、その後《あと》でこういいました――
「いいお点《てん》って、なんの役《やく》に立《た》つの、ねえ、お母《かあ》さん?」
「いいお点っていうものはね、なんの役《やく》にも立《た》たないんですよ。」と、エムリーヌのお母《かあ》さんはお答《こた》えになりました。「それだからかえって、いただいて自慢《じまん》になるのです。そのうちに、あなたもわかってきますよ。いちばん尊《とうと》い御褒美《ごほうび》っていうのは、名誉《めいよ》にだけなって、別《べつ》に得《とく》にはならないような御褒美《ごほうび》です。」
大きいものの過《あやま》ち
道《みち》というものは川《かわ》によく似《に》ています。それは、川《かわ》というものがもともと道《みち》だからです。つまり、川というのは自然《しぜん》に出来《でき》た道で、人は七|里《り》ひと跳《と》びの靴《くつ》をはいてそこを歩き廻《まわ》るのです。七|里《り》ひと跳《と》びの靴《くつ》というのは船《ふね》のことです。だって、船《ふね》のことをいうのにこれよりいい名前《なまえ》がありますか? ですから、道《みち》というのは、人間《にんげん》が人間のためにこしらえた川のようなものです。
道《みち》は、川の表面《ひょうめん》のように平《たいら》で、綺麗《きれい》で、車《くるま》の輪《わ》や靴《くつ》の底《そこ》をしっかりと、しかし気持《きもち》よく支《ささ》えてくれます。これはわたしたちのお祖父様方《じいさまがた》が作《つく》って下《くだ》さったものの中《なか》でもいちばん立派《りっぱ》なものです。このお祖父様方《じいさまがた》はお亡《な》くなりになった後《あと》にお名前《なまえ》が残《のこ》っていません。わたしたちは、ただそのお祖父様方《じいさまがた》がいろいろいいことをして下《くだ》さったということを知《し》っているだけです。ほんとうに有難《ありがた》いものですよ、道《みち》っていうものは。そうでしょう、道《みち》があるお蔭《かげ》で、方々《ほうぼう》の土地《とち》に出来る品物《しなもの》がどんどんわたしたちのところへ運《はこ》ばれて来ますし、お友《とも》だち同士《どうし》も楽《らく》に往《い》ったり来《き》たりすることが出来ます。
それで今日《きょう》も、お友《とも》だちのところへ行こうと思って、そのお友だちはジャンというのですが、ロジェとマルセルとベルナールとジャックとエチエンヌとは国道《こくどう》へさしかかりました。国道《こくどう》は日に照《て》らされて、きいろい綺麗《きれい》なリボンのように牧場《まきば》や畑《はたけ》に沿《そ》って先へと伸《の》び、町や村を通りぬけ、人の話では、船《ふね》の見える海まで続《つづ》いているということです。
五人の仲間《なかま》はそんな遠《とお》くまでは行きません。けれども、お友《とも》だちのジャンの家《いえ》へ行くのには、たっぷり一キロは歩かなければならないのです。
そこで五人は出《で》かけました。お母《かあ》さんにちゃんとお約束《やくそく》をしたので、五人だけで行《い》ってもいいというお許《ゆる》しが出たのです。ふざけないで歩くこと、決《けっ》して傍道《わきみち》をしないこと、馬や車をよけること、五人のうちで一|番《ばん》小さいエチエンヌのそばを決して離《はな》れないこと、そういうお約束《やくそく》をして来《き》たのです。
そして五人は出《で》かけました。一|列《れつ》になって規則正《きそくただ》しく進んで行きます。これくらいきちんとして出かければ、申《もう》し分《ぶん》はありません。しかし、それほど立派《りっぱ》で一糸乱《いっしみだ》れないなかに、一つだけいけないところがあります。エチエンヌが小《ちい》さすぎるのです。
エチエンヌは非常な勇気《ゆうき》を奮《ふる》い起こします。一|生懸命《しょうけんめい》、足を速《はや》めます。短《みじか》い脚《あし》を精《せい》いっぱいにひろげます。まだその上に、腕《うで》を振《ふ》ります。しかし
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