、なんといっても、小《ちい》さすぎます。どうしても仲間《なかま》について行けません。遅《おく》れてしまいます。これはわかりきったことです。哲学者《てつがくしゃ》といわれる人たちは、同じ原因《げんいん》があればいつでも同《おな》じ結果《けっか》になるということを知っています。しかし、ジャックにしてもベルナールにしても、マルセルにしても、またロジェにしても、哲学者《てつがくしゃ》ではありません。四人は自分《じぶん》の脚《あし》に応《おう》じた歩き方をします。可哀《かわい》そうなエチエンヌも、やっぱり自分の脚《あし》相応《そうおう》に歩《ある》いているのです。調子《ちょうし》が揃《そろ》う筈《はず》がありません。エチエンヌは走《はし》ります。息《いき》を切《き》らします。声を出します。それでも遅《おく》れてしまいます。
大きい人たちは、つまりお兄《にい》さんたちなんですから、待《ま》ってやればいいのに、エチエンヌの足にあわせて歩《ある》いてやればいいのにと思うでしょう。ところがそれは駄目《だめ》なのです。そんな心掛《こころがけ》は、この子《こ》たちにはそもそも註文《ちゅうもん》するだけ無理《むり》なのです。そういうところは、この子たちも大人《おとな》も同《おな》じです。「進《すす》めッ」と、世間《せけん》の強《つよ》い人たちはいいます。そうして弱《よわ》い人《ひと》たちをおいてきぼりにします。ですが、このお話《はなし》がどうなるか、おしまいまできいていらっしゃい。
ところで、この四|人《にん》の、大きい人たち、強《つよ》い人たち、元気《げんき》な人《ひと》たちは、急《きゅう》に立《た》ちどまります。地面《じめん》に一|匹《ぴき》の生きものが跳《と》んでいるのを見つけたのです。なるほど跳《と》ぶはずです、その生《い》きものというのは蛙《かえる》で、道《みち》ばたの草原《くさはら》まで行こうと思っているのです。その草原は蛙《かえる》さんのお国です。蛙さんには大切《たいせつ》なお国です。そこの小川《おがわ》のそばに自分のお屋敷《やしき》があるんですから。そこで蛙《かえる》さんは跳《と》んで行きます。
蛙というものは、天然自然《てんねんしぜん》の細工物《さいくもの》として、これはたいしたものです。
この蛙は緑色《みどりいろ》です。まるで青い木の葉のような恰好《かっこう》をしています。そうして、そういう恰好《かっこう》をしているので、なんだか素晴《すば》らしくみえます。ベルナールとロジェとジャックとマルセルは、それを追《お》いかけはじめます。エチエンヌのことも、真黄色《まっきいろ》な綺麗《きれい》な道のことも忘れてしまいます。お母《かあ》さんとのお約束《やくそく》も忘《わす》れてしまいます。もう四人は草原《くさはら》の中へはいっています。しばらくすると、草が深《ふか》く茂《しげ》っている柔《やわら》かい地面《じめん》に、足がめり込《こ》んでいくのがわかります。もう少し行くと、膝《ひざ》のところまで泥《どろ》の中にはまり込《こ》みます。草で見えなかったのですが、そこは沼になっていたのです。
四人は、やっとこさでそこから足をひきぬきました。靴《くつ》も、靴下《くつした》も、腓《ふくらはぎ》も真黒《まっくろ》です。緑の草原《くさはら》の精《せい》が、いいつけを守《まも》らない四人の者に、こんな泥《どろ》のゲートルをはかせたのです。
エチエンヌはすっかり息《いき》を切らして四人に追《お》いつきます。四人がそんなゲートルをはかされているのを見ると、喜《よろこ》んでいいのか、悲《かな》しんでいいのかわからないような気持《きもち》です。そこで、大きい人や強《つよ》い人には大変《たいへん》な災難《さいなん》が降りかかって来《く》るということを、無邪気《むじゃき》な頭の中でいろいろと考《かんが》えてみます。ゲートルをはかされた四人の方《ほう》は、しおしおとひっかえします。だって、そんな恰好《かっこう》をして、お友《とも》だちのジャンのところへ行《い》けるはずがないでしょう? 四人がお家へ帰《かえ》ったら、みんなのお母《かあ》さんは、その脚《あし》をごらんになって、四人が悪《わる》いことをしたということがちゃんとおわかりになるでしょう。反対《はんたい》に、小《ちい》さなエチエンヌの清浄無垢《せいじょうむく》なことは、その薔薇《ばら》いろの腓《ふくらはぎ》に、後光《ごこう》のように現《あらわ》れているでしょう。
[#地から3字上げ]挿絵 大野隆徳
底本:「日本少国民文庫 世界名作選(一)」新潮社
1998(平成10)年12月20日発行
底本の親本:「世界名作選(一)」日本少國民文庫、新潮社
1936(昭和11)年2月8日
※大野隆徳
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