はお亡《な》くなりになった後《あと》にお名前《なまえ》が残《のこ》っていません。わたしたちは、ただそのお祖父様方《じいさまがた》がいろいろいいことをして下《くだ》さったということを知《し》っているだけです。ほんとうに有難《ありがた》いものですよ、道《みち》っていうものは。そうでしょう、道《みち》があるお蔭《かげ》で、方々《ほうぼう》の土地《とち》に出来る品物《しなもの》がどんどんわたしたちのところへ運《はこ》ばれて来ますし、お友《とも》だち同士《どうし》も楽《らく》に往《い》ったり来《き》たりすることが出来ます。
 それで今日《きょう》も、お友《とも》だちのところへ行こうと思って、そのお友だちはジャンというのですが、ロジェとマルセルとベルナールとジャックとエチエンヌとは国道《こくどう》へさしかかりました。国道《こくどう》は日に照《て》らされて、きいろい綺麗《きれい》なリボンのように牧場《まきば》や畑《はたけ》に沿《そ》って先へと伸《の》び、町や村を通りぬけ、人の話では、船《ふね》の見える海まで続《つづ》いているということです。
 五人の仲間《なかま》はそんな遠《とお》くまでは行きません。けれども、お友《とも》だちのジャンの家《いえ》へ行くのには、たっぷり一キロは歩かなければならないのです。
 そこで五人は出《で》かけました。お母《かあ》さんにちゃんとお約束《やくそく》をしたので、五人だけで行《い》ってもいいというお許《ゆる》しが出たのです。ふざけないで歩くこと、決《けっ》して傍道《わきみち》をしないこと、馬や車をよけること、五人のうちで一|番《ばん》小さいエチエンヌのそばを決して離《はな》れないこと、そういうお約束《やくそく》をして来《き》たのです。
 そして五人は出《で》かけました。一|列《れつ》になって規則正《きそくただ》しく進んで行きます。これくらいきちんとして出かければ、申《もう》し分《ぶん》はありません。しかし、それほど立派《りっぱ》で一糸乱《いっしみだ》れないなかに、一つだけいけないところがあります。エチエンヌが小《ちい》さすぎるのです。
 エチエンヌは非常な勇気《ゆうき》を奮《ふる》い起こします。一|生懸命《しょうけんめい》、足を速《はや》めます。短《みじか》い脚《あし》を精《せい》いっぱいにひろげます。まだその上に、腕《うで》を振《ふ》ります。しかし
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