て私の手のひらに載せた。
祖母は祖母で村の人の使ひや洗濯をして、僅かな金を得てゐるのだつた。
それから祖母は、毎日毎日來て、お小遣を置いていつた。私はその祖母の血滴のやうな錢で、家から禁じられてる駄菓子の買啖ひをして、小さい慾望を滿足さした。
毎晩十二時になると、私は急に夜具を蹴上げて飛び起きた。
「わあつ!」といふ叫びを擧げながら、あらゆる障害物を飛び踰えて、往來へと突進した。危ぶない! 危ぶない!家の者や近所の者は、何處まで駈け出してゆくか解らない私を抱き止めて、また寢床の中へ連れ戻した。私は何にも意識しないで、その儘靜かな眠りを續けるのだつた。
私はいつも覺めてゐる時も寢てゐる時も、乳母や乳弟妹《ちきやうだい》に呼びかけられてゐるやうで少しもおちつかなかつた。始めは僅かな養育料の爲に繋がれた私達だつたが、とうとう切り放せない一つのものになつてしまつたのだつた。
そして彼の家の赤貧は、少さい私の重荷になつて、一層私を貧に對して神經質にした。
何時からともなく祖母は姿を見せなくなつた。病氣でもしてゐるのではないかと思つた。すると製糸工場へ行つてゐる母が、祖母も夫も子供も
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