が泳いでゐるよ。」
 誰も口を揃えて貧しい父母を侮蔑した。
 さういはれて見ると實際、私の愛する弟妹達の髮の毛には、粉雪のやうに白い細かい虱が根深く喰ひこんでゐるのが眼に見える。
「虱なんか、たけてくると傍《はた》迷惑だよ、第一着物が臭くなるから、あんな家へいかない方がいゝよ」
「お前が、彼邊の貧乏屋で、かけたお碗でけんちん汁か何か食べてた姿[#底本では「婆」と誤記]を見たものがあるか? もしあればその人はそれつきりお前に愛想を盡かしてるぜ、まるで乞食の子だ、俺なんか沁々[#底本では「泌々」と誤記]お前が厭んなつちやつたぜ‥‥‥」
「夕方になると彼處の乞食婆がね、×ちやんに逢ひたくつて、×ちやんの家の前を幾度も往き來してんだよ、まるで偸人《ぬすつと》みたいな婆あだつて、ほんとかい?」
 皆の揶揄が小さい私の心を寸斷した。
 夕方私が家の窓から往來を覗くと、祖母が向ふの油倉の蔭にかくれて手招ぎをしてゐた。
 私は彼方を見、此方を見ながら、祖母の傍へ駈け寄つていつた。
 始終蜆の貝のやうに爛れてゐる眼のそばへ、くつつけるやうに茶の毛糸の巾着を持つていつて、その中から銅貨を二つ三つつまみ出し
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