しつとりとしたお菓子が、規帳面に並んだ上を、白い雲の集團が煤色の影を落しながら飛んでゆく。
炎天下に勞作する男女の群を、子供等は何にも知らずに繪のやうに眺めた。その風景は長閑な異國的な情緒さへ私達に傳へた。
子供等は土擔ぎの眞ッ黒な人夫の群の中から若い父親を見出すと、小鳥のやうに口をあいて聲を揃えて
「お父つつあん――」
と一齊に呼ぶのだ。二三度呼ぶと、父は對岸の子供の方をチラッと振り向いて、愛情の籠つたむづがゆいやうな微笑を傾けた。
百姓から行商人へ、それから勞働者へと境遇の變つていつた父の、工場を背景にして働く姿は、どんなに輝やかしく男性的に子供等の瞳へ映つたろう。だが、その古い印袢天の下に穿いた、汗と垢に汚れた白木綿のズボンが、べたべたと父の下半身に絡みついて、それがおそろしく父の足許を疲勞してゐるやうに見せた。
私は貧しさに沒してゐる間は、自分の貧しさを知らなかつたが、學齡までといふ生家と里親との約束の期限が來て、とうとう私はこの若い貧しい、然し温い父母の懷中から切斷されてしまつた。それは全く血の滲むやうな苦悶だつた。
「×さん、もうあの貧乏家へはいかないがいゝよ、虱
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