お》き上《あが》らうと意識《いしき》の中《なか》では藻掻《もが》いたが、體《からだ》は自由《じいう》にならなかつた。
 西《にし》の空《そら》はいま、血《ち》みどろな沼《ぬま》のやうに、まつ紅《か》な夕《ゆふ》やけに爛《たゞ》れてゐた。K夫人《ふじん》は立《た》つて西窓《にしまど》のカーテンを引《ひ》いた。
 病人《びやうにん》は不安《ふあん》な眼《め》を室内《しつない》に漂《たゞよ》はしてゐたが、何《なに》か物《もの》をいひたさうに、K夫人《ふじん》の動《うご》く方《はう》を眼《め》で追《お》つてゐた。
『あなたはいま重態《ぢうたい》なんですから、お氣《き》をおちつけて、靜《しづ》かにしてゐなければいけませんのよ、此處《ここ》? 此處《ここ》ですか……』
 K夫人《ふじん》はいひ澁《しぶ》つたが、氣《き》の毒《どく》さうに病人《びやうにん》を見《み》ていふのだつた。
『此處《ここ》は、御存《ごぞん》じでせう、ほら××村《むら》のH病院《びやうゐん》ですのよ。それは宗教《しうけう》の病院《びやうゐん》になんか、あなたをお入《い》れしたくなかつたんですけれど、差《さ》し迫《せま》つた事《
前へ 次へ
全18ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
若杉 鳥子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング