うにん》の容態《ようたい》は、刻々《こく/\》險惡《けんあく》になつてゆくので、たうとう、そこから餘《あま》り遠《とほ》くない、府下《ふか》××村《むら》のH病院《びやうゐん》へ入院《にふゐん》させるより仕方《しかた》がなくなつた。それはキリスト教《けう》の教會《けうくわい》の附屬《ふぞく》病院《びやうゐん》なので、その事《こと》に就《つ》いては、大分《だいぶ》異議《いぎ》を持出《もちだ》した者《もの》もあつたが、この場合《ばあひ》一|刻《こく》も、病人《びやうにん》を見過《みすご》して置《お》く事《こと》はできなかつた。さうして彼女《かのぢよ》は何《なに》も知《し》らずに、婦人達《ふじんたち》に見守《みまも》られながら、靜《しづ》かに寢臺車《しんだいしや》で搬《はこ》ばれた。

 冷氣《れいき》は酢《す》のやうに彼女《かのぢよ》の體《からだ》を浸《ひた》してゐた。
 硝子《ガラス》戸《ど》の外《そと》には秋風《あきかぜ》が吹《ふ》いて、木《こ》の葉《は》が水底《みなそこ》の魚《さかな》のやうに、さむ/″\と光《ひか》つてゐた。
 此處《ここ》はどこなのかしら――彼女《かのぢよ》は起《
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