こと》ではあるし、經濟的《けいざいてき》にどうにもならなかつたもんですからね、全《まつた》く仕方《しかた》のないことでした。』
 病人《びやうにん》はK夫人《ふじん》の顏《かほ》の下《した》で、小兒《こども》のやうに顎《あご》で頷《うなづ》いて見《み》せた。上《うへ》の方《はう》へ一束《ひとたば》にした髮《かみ》が、彼女《かのぢよ》を一|層《そう》少女《せうぢよ》らしく痛々《いた/\》しく見《み》せた。
 K夫人《ふじん》は病人《びやうにん》の耳《みゝ》もとに口《くち》を寄《よ》せて囁《さゝや》くやうにたづねた。
『遠《とほ》くにゐる方《かた》で、お逢《あ》ひになりたい方《かた》もありませう?』
 彼女《かのぢよ》は默《だま》つて首《くび》を振《ふ》つた。その眼《め》には涙《なみだ》がいつぱいに溜《たま》つた。
『でも、知《し》らしてだけは置《お》く方《はう》が好《い》いんですのよ、來《き》ようと思《おも》ふ氣持《きもち》がありさへしたら、すぐに來《き》てくれるかもしれませんからね、ね、電報《でんぱう》を打《う》ちませうね?』
 K夫人《ふじん》の言葉《ことば》に、病人《びやうにん》は
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