感謝《かんしや》するやうに、素直《すなほ》に頷《うなづ》いた。
 隣室《りんしつ》には、Aの夫人《ふじん》、Cの母堂《ぼだう》、若《わか》いTの夫人《ふじん》等《ら》が集《あつま》つてゐた。病室《びやうしつ》の方《はう》での忙《せは》しさうな醫員《いゐん》や看護婦《かんごふ》の動作《どうさ》、白《しろ》い服《ふく》の擦《すれ》音《おと》、それらは一々|病人《びやうにん》の容態《ようたい》のたゞならぬ事《こと》を、隣室《りんしつ》に傳《つた》へた。
 そこへ今朝《けさ》、片山《かたやま》の假《かり》出獄《しゆつごく》を頼《たの》む爲《ため》に辯護士《べんごし》の處《ところ》へ出《で》かけて行《い》つたK氏《し》が戻《もど》つて來《き》た。
 疲勞《ひらう》と睡眠《すゐみん》不足《ふそく》とに、K氏《し》は蒼《あを》ざめて髭《ひげ》[#底本では「髮」と誤記]さへ伸《の》ばしてゐた。
『どうも困《こま》つちやつたんです。』
 K氏《し》は婦人達《ふじんたち》を見《み》るなりさういつた。
『片山《かたやま》さんのことですか?』
『それもどうも望《のぞ》みはないらしいですがね、それよりも金《かね
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