ノアーゼ」と誤記]が來《き》てしまつた。
 彼女《かのぢよ》は、生命《いのち》の灯《ひ》の、消《き》える前《まへ》の明《あか》るさで、めづらしくK夫人《ふじん》に話《はな》しかけた。
『Kのおくさん、私《わたし》はいま何《なん》て幸福《かうふく》――』
『え、幸福《かうふく》?』夫人《ふじん》も微笑《びせう》を返《かへ》した。
『私《わたし》はかうして皆《みな》さんに圍《かこ》まれてゐると、氣持《きもち》の好《い》いサナトリウムにでも來《き》てゐるやうですよ、私達《わたしたち》の爲《ため》にも、病院《びやうゐん》やサナトリウムが設備《せつび》されてゐたら、此間《このあひだ》亡《な》くなつたSさんなんか、屹度《きつと》また、健康《けんかう》になれたんでせうにね。』
 Sとは、極度《きよくど》に切《き》り詰《つ》めた生活《せいくわつ》をして、献身的《けんしんてき》に運動《うんどう》をしてゐた、若《わか》い一人《ひとり》の鬪士《とうし》だつた。
『今日《けふ》は脚《あし》から、ずん/\冷《つめ》たくなつてゆくのが自分《じぶん》にも解《わか》るんです。私《わたし》も矢《や》つ張《ぱ》りあのSさ
前へ 次へ
全18ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
若杉 鳥子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング