抵男の客ばかりですからね」と宿屋でいった。「男の人の傍でもかまいませんから」こちらは女二人になったことを気強く意識して交渉し出した。とうとうその混雑の中へ泊まることができた。
その晩二人は旅装を解いて、お湯の中で色々と話しあった、女子大学出の、インテリらしい快活な女性だった。話してみると共通の友人を持っていたり、殊にその人が劇作家の某女史の親友であったりしたので、二人は忽ちに十年の交友のように親しくなった。狭い室に一緒に寝て、いろんな話をした。その人は女子大学を出ると、婦人記者を少しやったが、今はある家の家庭教師をしているといった。そしてこの秋には、ローサンゼルスにいる友人をたよって渡米するのだといっていた。
翌朝起きて顔を洗ってくると、彼女は手提げの中から点眼薬を出して、ごろりと仰向けに臥《ね》た。目薬をさしてくれというのだった。澄んだ大きい眼をしていて、格別、眼を患っているようでもなかったが、「彼の地では赤線ひとつあってもそれを理由として、日本人の上陸を拒むんですからね」何故そんなに排日の激しい処に行かなければならぬのか知らないが、彼女は異情な情熱を見せてそういった。
朝食が
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