済むと、二人はまた追われるように宿を出た。彼女はかなり多く登山の経歴を持っているらしく、時々遠くに展開する山々を見ては地図を出して確かめては楽しんでいる風だった。そうして二人は白樺の林間をあてもなく歩いていたが、結局友達は赤城へ向かって行くというし、私は東京へ帰ることにした。その日の午後、私達は碓井の麓で袂《わか》れを告げた。リュックサックも何もなしに、雨傘一本で山から山へと歩いてゆく、友達の身軽な姿を私は振り返って見送っていた。
――今年も私は頻りとその女性のことが思い出されてならなかった。然し今度はそういう道|伴《づ》れもなく、独り旅を続けた。独りの旅は寂しいというよりも、勿体なくて仕方のない気持ちだ。何処へ行こうと、集まることさえできるなら、そこにはきっと胸を割って話しあえる、多くの友達があるに違いない、そして私達は熱心に芸術を語り、生活を語り、希望に就いて語るに違いない、だのに無意味に黙々として歩く。それは如何に相対する自然が美しくあろうと、荘厳であろうと、物足りない、もっと胸をうつものがあるべきだ。
こんなことを思うのは、それは私達が都会人であるからだろうか、否々今まで集
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