独り旅
若杉鳥子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)昏《く》れかけて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)段々|駈《か》られ
−−
汽車がA駅を通過する頃から曇って来て、霧で浅間の姿も何も見えなくなった。冷たい風と一緒に小雨が降り出して、山際の畔で、山羊が黙々と首を振っている。三つめの駅で汽車を降りた時には、もう日が昏《く》れかけていたし、自動車もあるにはあったが、目的地まで半里だというので、ナニ歩けないことはない――脚には少し自信があるので、私は日和下駄のまま歩き出した。
街はずれで、青い事務服をお揃いに被《き》た娘さん達の群に逢う。この辺の女工さん達が監督に引率されて、遠足にでも出かけた帰りらしい。雨に濡れながら駅の方へ急いでいた。街を出はずれると、それっきり人ッ子ひとり通らない。雨はますます激しくなり、道は爪先き上がりになってくる、所々にある木小屋なども見えなくなると、左は奥深く真っ暗な落葉松の森林だ、右は崖っぷちで、もうもうと立ち罩《こ》めた霧の底を流れてゆく水勢だけが、見えないので不気味にすさまじい。しまった、と思ったが
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