も風の日にも、私は社から疲れて帰って、かじかんだ手で鍵を開けて、真っ暗い家の中に入り、ランプを灯して、此度は火を起こしにかかるのです。馴れない為に幾ら起こしても消えて了う。終には自棄《やけ》になって、石油をかけて火をつける、随分危険な乱暴な事をしたものです。
そんなに迄しましたが、遂に勉強の暇は得られませんでした。
下男は口癖のように、お嬢さんはお可哀想だと云っていましたが、遂に見兼ねてか私の生活の状態を、郷里の家へ知らせてやったと見えて、それから充分に金子《かね》も送ってくれましたし、衣服等も汚れれば直ぐ郷里へ送り返すと、新しい着替えを送ってくれるというようになりました。衣服の汚れる事、いたむ事は、それはそれは甚だしいので、母に始末をたのむのが気の毒のようで御座います。
然うなって来ると、丁度空腹の人が食を得て眠くなるように、却って身の為になりません。その後|逐《と》うとう惰弱に流れ、虚栄は募る、物質欲が増長して、安逸許りを求めて、自己の修養などは、とんと忘れて了いました。
洗濯物すら素人の手では気持ち悪く、貴婦人達にはお友達が出来る。高価、月給の一割もするクリームが塗りたく
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