に応ずる方は、余程解った方でしょう。
逢うには逢って下さるが、御謙遜が過ぎて皮肉なように受け取れます。尤も此方が神経過敏になっているせいで、先方《さき》でも責任を重んぜられるが故に、無暗にお口をお開きにならぬのでしょう。然し何時お目にかかっても気持ちのよいのは、芸術家、もしくは芸術を解された方で御座いましょう。
広い世間を歩いて見ると、色々な人に出会いますから、自分というものを全然殺してかからないと、此の商売は出来ません。
ある旧華族でしたが、御令嬢にお目にかかりたいと申し出でました。すると、『当家の姫君は新聞の材料《ねた》には相成らせられぬ。』とある。今時こんな事を聞いてお芝居のようだと、編輯室の一同で笑いました。
斯ういうものは執事の老人が時勢を知らぬので、夫人なり令嬢なりは当代の教育も受けられているし、決してそんな事はあるまいと存じます。それから櫻井ちか子(1)女史を訪問した事が御座いましたが、それも大きに失敗談。女史がタイプライターをせらるる間、三十分許り応接間でお待ち申すと、軈《やが》て女史は入ってこられた。
先ず氷のように冷たい瞳の視線に、若い胸を射られて、ジロジ
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