しかない自分を、有力この上もない紹介者などゝ思ひ込んでゐる彼女の常識を、疑はないわけにはゆかなかつた。勿論新聞廣告をする派出婦會だから、紹介者も何も必要なわけはないんだ。
「骨が折れませうね、小母さん――」
 自分にもその責任[#「任」は底本では「仕」と誤記]を感じながら私はいつた。
「えゝ、頼む程の家でしたら、入つて行くともう、洗濯物が山のやうに出してあるんですよ」
 私は彼女の手を見てゐた。骨組みの頑丈な手をしてゐた。それによつて、幾らか氣持ちが輕くさせられた。
「かうして毎日方々歩いてゐますと、隨分妙な事にぶつかるもんですね」
「それはさうです。いろんな家庭がありませうからね」
「いゝえね、あなた、愕いちまふやうな恐い事に出つくわしたんです」
「どうしたんですの、恐いことつて」
「私はもう派出婦なんて商賣は止めてしまはうかと思ふんです、どうもあんな事に出會つて見ると堪らなく心配になつて來たんです。それがねあなた、妻君に死なれて子供と二人でゐる人の處にやられたんです。どうも男といふものは全く油斷も何も出來るものぢやありません」
 もう五十に手の屆きさうなお房さんは、何か面白くて堪ら
前へ 次へ
全14ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
若杉 鳥子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング