古鏡
若杉鳥子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)良夫《やど》のゐる中は兎も角、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)疊[#底本では「暮」と誤記]
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 暗い野路を歩いて來た者の眼に、S遊廓の灯は燦爛と二列に輝いてゐた。けれども、少し光りに馴れた者の眼には、莫迦に燈火の乏しい、喪に服してゐるやうな街だつた。處々に深い闇が溜つてゐた。
 格子の中では赤い裾が金魚のやうに泳ぎ、ざわめき、黴と酒とアンモニアの醗酵したやうな臭ひがしみじみと浮動してゐる。そこに男の群像が、野犬のやうに喚めき、うろつき或はさゝやき、影繪のやうに交錯する。
 その暗い街を、私は腦裡に呼び覺しながら、一人の女の肉體を描いてゐた――そしてふと氣がついて見ると、お房さんはもうずつとその先へ話を進めてゐた。
「ねえ、女つてものは、なんぼうつまらないものだか……」
 お房さんは時々さういつて溜息を吐いた。お房さんは、昔ともえやのお女郎だつた。それまでも方々の宿場を渡つて來てゐた。
 だが私が知つたのは、隣村の村長の後妻になつてからである。
 お房さんはいつも赤い顏を
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