つくりと頷いた。空虚な顏つきをしてゐた。
 縋つてくる者を突き放したやうに、私は寂しかつたが、どうともしやうがなかつた。
「妹の處へ歸るのは、しみじみ私は厭なんです、それよか一層、派出婦人會にでも入つて働いて見ようかと思ふんです」
 その夕方新聞の廣告欄を見てゐた彼女は急にこんなことをいひ出した。
「でも、それはあなたに骨が折れ過ぎはしないでせうか」
 一人の女の生涯が、玄翁か何かで粉碎されたやうに私は感じた。しかし他によい方法があるではなし、極力それを止めさせるだけの強い事もいへなかつた。
 午後、小さい風呂敷包を持つて出て行く、お房さんの後姿を默つて私は見送つた。

 一週間ばかりすると、お房さんはやつて來た。相變らず漬け梅のやうな赤い顏をしてゐた。
「會長さんといふのは、まだ若い方でしたが、なかなか物事の解るらしい落ちついた方でして、それに私はいつたんですよ、片山とし子樣の御紹介ですつて」
「えツ、何故そんな事をいつたんです」
「片山とし子樣、片山とし子樣つて……」
 私は少し妙だなあと思つた。片山とし子等といつたつて、こんな裏街に赤ん坊と二人で暮してゐる、下級サラリーマンの妻で
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