に時々あてゝ、くどくどと訴へた。
「そして今、小母さんは何處に身を置いてゐるんですの」
「やつぱしその妹の家に……ほんとに時には死んだ方がましだと思ふんですよ」
「ぢやあ何故、田舍の方へ小母さんは歸らないんですの、田舍では、譬へ肉親でなくても小母さんの育てた娘さんや息子さん達が、立派になつてゐるでせう」
「それがあなた……田舍にゐられる位なら、何で邪慳で貧乏の妹になんかに手頼らうと思ひますものか」
 わたしは眼の前に白帆のゆるやかに流れるT河を泛べてゐた。その河岸の堤防の際に並んでる、白壁の倉を思ひ出してゐた。それは曾てお房さんが、村長の後妻として棲んでゐた家だつた。それからその邊には珍らしく艶めかしい女房だつたお房さんの、女盛りの姿を描いてゐた。
「商賣の女……と何かにつけていはれるのは辛いから、私はどんなに働きましたことか、朝は星のある中に起き、子育てから田の草取りまでしましたに、誰に一體感謝されたんでせうか、その頃は末の男の子が三つ、その上が五つに七つといふ風です。長男は十四になつてゐましたが、それが今では嫁を貰つて、嫁と二人で私をまるで生みの親の讐だといふやうな仕打ちをします。
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