ど同じ事が繰り返してある。
 一つ一つ開いてゐる中に、どさりと中から疊の上に落ちたものがある、長さ三寸ばかりの長方形の鏡だつた。
 枠がとれて、水銀が處々剥げてこわれた壁畫のやうに黄色く平板に物の象を映してゐた。
 ――私は、何故とも知れぬある衝撃をうけた。手紙の一節を私は讀んで見ると、
「この前、大雪が降りましたらう。あの日でございます、覺悟をしたのは。就きましてあなたに何や彼とお世話になりましたから、何か形見を差し上げたいと存じましたが、たゞ今私の持つてゐるものとては、着換の肌着もございません始末です。あの此の鏡だけは、若い時から大切に身につけて來ました品でございますから……」
 私は此處まで讀んで何故とも解らない嫌惡を感じた。自分に纒はつてくる、他人の暗影を拂い除けよう除けようとあせりながら、しかも自分まで引き摺りこまれてゆく、他人なのか自分なのか、その影は無數に絡みあひ縺れあつて擴大してゆく。また一方には溺れようとする者の掴みかゝる一握の藁、丁度またそれ程のものでしかない私を、差し出した無數の手が冷笑してゐた――僞善者ざまあ見ろ!と。

 古着屋と米屋の路地の左側の長屋の奥に私
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