は一軒の家を尋ねあてた。
玄關と並んで開け放たれた臺所の上り口には、家族が多いと見えて、午飯《ひる》の食器の汚れものがずらりと置き並べてあつた。
二三度聲をかけると、中から四十餘りの女が出て來た。何處か面ざしがお房さんに似てゐた。女は辯解的な口調で、警戒と探索の眼を私の胸もとに閃めかせながらいつた。
「全く姉には困り果てましてねえ――姉は何處か遠方へゆくとか、二三年前から申して居りましたが、いゝえあなた、皆でとめたのでございますよ、どうしてとめた位できくやうな姉の氣象ではござんせんからね。好いやうにさせたがいゝと思つていますとあなた、十日許り前に出たつきり、姉からは何ともいつて參りません。多分あなたさまの處にでも御厄介になつてる事と思つてゐたんでございますの……」
それからお房さんの妹は冷然と他人の事のやうにいつた。
「それにあなた商賣をした者は、年を老つても何となしにその癖が脱けませんですね、年寄りの癖にあの媚態《しな》が厭らしいつて、息子達が嫌ふんでございますよ」
お房さんのその妹の最後の言葉が、私に始めて、全く身の置き所のない彼女であつたといふことを、ほんとに知らしめた。
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