なに大事にしてくれても、その貧乏な里親が恋しくて、夜も睡ることができなかった。
 床につく時は観念しているのだが、少し睡ると眼が覚めて、一応あたりを見廻さずにいられなかった。そしてあの裸で寝る習慣のお婆さんも、オッカアも父《ちゃん》もいないと知ると、私は夢中で叫びながら駈け出した。どんな障碍物でも蹴飛ばすような勢いで、往来をめがけて走り出すのだった。
 危ないッ! 皆に抱き止められて、再びまた床の中に連れ戻されるのだが、こんなことが毎晩続いた。夢遊病者のように、自分でははっきりそれを意識しなかった。  
 里のお婆さんの方もまた、預けた家へかえしはしたが、心配と逢いたさに、昏《く》れ方[#底本では「昏《くれ》れ方」と誤記]はきっと、向こうの家の土蔵の陰から顔だけ出して、私の方へ手招ぎをするのだった。
 それを見ると、私はお婆さんの傍へ走り寄って行ったがお婆さんは歓んで息を切らしながら、いろんなことを訊いた。そして訣れる時、近眼のお婆さんは、懐中から出した茶色の巾着へ、眼をくッつけるようにして中から銅貨を摘み出し、私の掌の上に置いてくれるのだった。――それはお婆さんが近所の使い走りや洗濯
前へ 次へ
全6ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
若杉 鳥子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング