雨の回想
若杉鳥子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)随《つ》いて

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)何時|霽《は》れる

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)[#「※」は「めへん+爭」、第3水準1−88−85、226−11]
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 ゆうべからの雨はとうとう勢いを増して、ひる頃から土砂降りになった。樹の葉は青々と乱れ、室内の物影には、蒼黒い陰影がよどむ。
 私は窓から、野一面白い花でうごめいている鉄道草の上に、雨のしぶくのを見ていたが、私はいつか知らない土地で、何時|霽《は》れる[#底本では「霽《はれ》れる」と誤記]とも知れぬ長雨にあって、やはりこうして降る雨をみつめていた、子供の時の気持ちを思い出した。
 それは何処の土地だか知れないが、向こうの神社の杜の中から、お神楽の太鼓が響いて、時々子供達の騒ぐ声が、波のようにきこえて来た。向こうの藁葺屋根の暗い軒端に、祭礼と書いた赤い万灯が立て掛けてあって、それが雨に濡れて字が滲み、ぽたぽたと赤い雫を落としていた。私は何
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