こたありゃしまい、散々思いあって思う男と死に遂げるなんて、こんな甘《うま》い話があるもんかい。』
そんな風な冗談をいいあったが、何故か心から笑う者はなかった。その目の前には、何等の形式の片影も被《かぶ》せられてない血みどろの若い女の屍体が、厳然と置かれてあるではないか……。
無宗教の葬式のように、お経を読むでもなく香を焚くでもなく華を手向けるでもない、悼詞で死者の生涯を讃めたたえるような友人も彼女に勿論あろう筈がないのだった。
文字どおりただ埋めるだけなのである。
墓場に和尚は顔を出しても、法衣一つ身に纏わず、自分も迷惑そうな苦笑さえ浮かべて、
『××楼さん――どうもはやお気の毒な事で、とんだ御損害で……』
楼主に対して挨拶をする。
坊さんばかりでなく、此処へ集まって来ている誰も彼もが、不思議と彼女を憐れもうとする者は一人もなく、
『御災難で、御損害で、御気の毒で』
と楼主に対して繰り返してる。
然しそれは不思議でも何でもないかも知れない、一度こうした変死者を出すと、その抱え主の楼《うち》では、死者の借金が無になる許《ばか》りでなく、連想を忌んで、当分その家へ遊びにゆくも
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