は親へ、女の方は楼主へ引き渡されたものだった。
それでも白木の棺だけは用意されて、其処からは一丁程しかないお寺の墓地に搬《はこ》ばれたのである。
路に添うた墓地の一郭、此処は昔から無縁の死者を埋める処で、土饅頭が幾つも熊笹に埋もれているだけで、墓標も何もない、おまけに大きい樹が繁りあって、昼も暗く空を掩っている。血が滲み出しはしないかと思われる位、死後の時間を経過しない棺桶が一つ、あら縄で括られたまま手荷物か何かのように、今掘り起こされつつある赭《あか》い盛り土の傍に置いてあった。
寺男の爺さんはせっせ[#「せっせ」に傍点]と鋤をふるいながら段々穴を掘り下げていたが、
『お、こんなものが出やがった、偉い酒の好きな仏様だと見えて……』
そういって何か土塊のようなものを、見物人のあしもと足許《あしもと》へ投げ出した。
黒い大徳利が一つ、過ぎ去った人生そのもののような顔をして、久しぶりで空気の中に置かれた。
『みんな、見物ばかりしてねえで、お酒でも買って上げな、そうしねえてと今夜この仏様がよ、打ち掛け姿で礼に廻って歩くと……』
爺さんが気味の悪い冗談をいうと皆も、
『何も化けて出る
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