ある遊郭での出来事
公娼存廃論者への参考資料としての実例
若杉鳥子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)流石《さすが》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、底本のページと行数)
(例)[#「そそくさ」に傍点]
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1 大泥棒の客
ある晩、F楼の亭主が隣家のH楼の電話を借りにいった。
Fにも電話があるのに自分の処へ借りに来たものだから、H楼の亭主は何事かと思って、
『お宅の電話は、どうかしましたか?』
と訊《き》いた。
『ナニ、警察へちょっと……野郎感づくと遁がしちまうから……』
F楼の亭主はそういいながら電話室へ入ると、じきに電話を切って出て来たが、馴れ切った中にも、流石《さすが》に異常な緊張を見せてそそくさ[#「そそくさ」に傍点]と出ていった。
それからすぐにH楼の亭主も、帯をぐっと締めなおして仲間の義理からF楼の帳場へ出掛けていった。
すると間もなく警察から私服の刑事がドヤドヤF楼の店へ入っていった。
刑事の一人が二階へ上がると、他の二人は階段の下で待っていた。
今にも階上で格闘が始
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