まり、凄い物音の起こるであろう事を予期して、階下では皆身構えて固唾《かたず》を嚥《の》んでいた。
およそ十分|許《ばか》りも静かに時が経過した。
すると張りあいがない、ノッシ、ノッシと階段を下りて来た大男は、観念してるもののように平静に階下の刑事と面接した。
男の皮膚は赤銅色をして大きい目鼻は怪鳥のような凄みを持った、馬鹿にのっぽな[#「のっぽな」に傍点]、カインの末裔を思わせるような人間だった。身には少年の着物のようにゆきたけの短い紺絣の筒袖を着ている。
その背後から刑事と二人で下りて来たのは、買われた娼妓の九重だった。
蒼ざめた、然し思い詰めた表情をして、彼女は階段の下に立っていた。
客と刑事とは二三何か問答をして、腰縄を客に打って、一同は店の土間へ降りようとした。降りかけて客は九重の方を顧み、眼で刑事に哀願してから、また九重の傍に戻って来た。男は九重の首を抱き込むようにして、彼女の耳に何事をかささやいた[#底本では「さささやいた」と誤記]。
彼女は身を縮めて、耳を掩うように手を当て眼を閉じていた。
男は前科五犯という強竊盗《ごうせっとう》でこの近郊の産であった。近
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