から覚めた風をして身動きをした。
そして落ち着き払って、枕頭《まくらもと》の煙草盆をひきよせて、一服ふかして、
『あんたまだ起きてたの、私は咽喉《のど》が渇いてめが覚めたんだけれど、あんたもお茶を飲みたかないか、いま階下《した》へいって持って来てあげよう』
その女は努めて落ちつき払っていいながらも、客に警戒しいしい床を脱け出した。
何気ない風を粧って階段を下りはしたが、下へ降りると一時に気が狂ったように大声で、
『大変です、大変です、救けて下さい!』
と怒鳴りながら楼中のものを起こした。
その女は幸いにも危うく死の道連れをまぬがれる事ができた。
後できくと、ブツリ、ブツリという音は、客が愈々心中を実行する場合に、女を篭の虫のように遁さない用心から、蚊帳《かや》の周囲を畳の目へ、釘で止めてゆく音だったという事である。
3 情死者の葬式
また、私はある時、情死した娼妓の埋葬される処を見た。
何という奇怪な葬式だったろう――葬式そのものよりも其処に参列した会葬者達の感情と気分とが、普通の死を囲繞するものとは全然異なっている。
轢死の場所で検死が済むと、男の方
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