のがなくなり、ぱったり客足が絶えてしまうので、一家の浮沈、生命の問題にまで拘わる事なのである。

      4 死への道 

 そしてまた彼女達は、何と容易に死を選ぶことだろう、刃物で、劇薬で、鉄道線路で……。
 ××楼のあの座敷は、三度情死のあった場所だろうか、壁を塗り代えても畳をとりかえても、すぐ血痕が附着するとか、線路上に飛散した男女の肉片が、夜来の豪雨に洗い曝された、烏賊《いか》の甲のようにキレイだったとか――色々のことを私は聴いた。[#底本では、この行頭の1字下げ無し]
 何時《いつ》の世にもこうした悲惨な事件が、何処の遊郭にも公娼の制度の存する限り、記録なき歴史を繰り返してゆくであろう。
 また私はある者が、暗い小部屋で肺患に呻吟しているのを見た。
 蒼ざめ痩せ細っていても、まだ快方に向かう希望のある中は、一歩も其処から解放されることはできないだろう。譬えまた、自由に行け、行って静養しておいで! といわれた処で、帰るべき家に、病人の彼女が齎らしてゆくおみやげは、一家の負担を一層切なくする飢えをもってゆくだけだろう。
『大抵な女を、可哀想だと思って家に帰すと、帰って直ぐに死
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