》ったり止《や》んだりいつもうっとうしい空《そら》のころで、夜《よる》になるとまっくらで、月《つき》も星《ほし》も見《み》えません。その中であやしい黒《くろ》い雲《くも》がいつどこからわいて来《く》るか、それを見定《みさだ》めるのはなかなかむずかしいことでした。するうち夜中《よなか》近《ぢか》くなると、いつものとおり東《ひがし》の空《そら》からその黒《くろ》い雲《くも》がわいて来《き》たものと見《み》えて、天子《てんし》さまは、おひきつけになって、おこりをおふるい出《だ》しになりました。
頼政《よりまさ》は黒《くろ》い雲《くも》が出《で》てきたようだとは思《おも》いましたが、一めんにまっくらな空《そら》の中で、何《なに》が何《なん》だかさっぱりわかりません。一生懸命《いっしょうけんめい》心《こころ》の中で八幡大神《はちまんだいじん》のお名《な》をとなえながら、この一の矢《や》を射損《いそん》じたら、二の矢《や》をつぐまでもなく生《い》きては帰《かえ》らない覚悟《かくご》をきめて、まず水破《すいは》という鏑矢《かぶらや》を取《と》って、弓《ゆみ》に番《つが》えました。するうちだんだん紫宸殿《ししいでん》のお屋根《やね》の上が暗《くら》くなって、大きな黒《くろ》い雲《くも》がのしかかって来《き》たことが闇夜《やみよ》にも見分《みわ》けがつくようになりましたから、ここぞとねらいを定《さだ》めて、その雲《くも》の真《ま》ん中《なか》めがけて矢《や》を射《い》こみました。やがて鏑矢《かぶらや》がぶうんと音《おと》を立《た》てて飛《と》んで行きますと、確《たし》かに手ごたえがあったらしく、急《きゅう》に雲《くも》が乱《みだ》れはじめて、中から、
「きゃッ、きゃッ。」
と鵺《ぬえ》のような鳴《な》き声《ごえ》が聞《き》こえました。
一の矢《や》がうまく行ったので、頼政《よりまさ》はすかさず二の矢《や》に兵破《ひょうは》という鏑矢《かぶらや》を射《い》かけますと、こんども正《まさ》しく手ごたえがあって、やがてどしんと何《なに》か重《おも》いものが、屋根《やね》の上におちたと思《おも》うと、ころころところげて、はるかな空《そら》からお庭《にわ》の上までまっさかさまにおちて来《き》ました。家来《けらい》の唱《となう》が、
「すわこそ。」
と駆《か》け寄《よ》って、ばけものを押《
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