おさ》えますと、早太《はやた》があずかっていた骨食《ほねくい》の短剣《たんけん》を抜《ぬ》いて、ただ一突《ひとつ》きにしとめました。
 頼政《よりまさ》が首尾《しゅび》よくばけものを退治《たいじ》したというので、御殿《ごてん》は上を下への大騒《おおさわ》ぎになりました。たいまつをとぼし、ろうそくをつけて正体《しょうたい》をよく見《み》ますと、頭《あたま》はさる、背中《せなか》はとら、尾《お》はきつね、足《あし》はたぬきという不思議《ふしぎ》なばけもので、鵺《ぬえ》のような鳴《な》き声《ごえ》を出《だ》して鳴《な》いたことがわかりました。ばけもののむくろはすぐに焼《や》いて、清水寺《きよみずでら》のそばの山の上に埋《うず》めました。
 鵺《ぬえ》が退治《たいじ》られてしまいますと、天子《てんし》さまのお病《やまい》はそれなりふきとったように治《なお》ってしまいました。天子《てんし》さまはたいそう頼政《よりまさ》の手柄《てがら》をおほめになって、獅子王《ししおう》というりっぱな剣《つるぎ》に、お袍《うわぎ》を一重《ひとかさ》ね添《そ》えて、頼政《よりまさ》におやりになりました。大臣《だいじん》が剣《つるぎ》とお袍《うわぎ》を持って、御殿《ごてん》のきざはしの上に立《た》って、頼政《よりまさ》にそれを授《さず》けようとしました。頼政《よりまさ》はきざはしの下にひざをついてそれを頂《いただ》こうとしました。その時《とき》もうそろそろ白《しら》みかかってきた大空《おおぞら》の上を、ほととぎすが二声《ふたこえ》三声《みこえ》鳴《な》いて通《とお》って行きました。大臣《だいじん》が聞《き》いて、
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「ほととぎす
名《な》をば雲井《くもい》に
あぐるかな。」
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 と歌《うた》の上《かみ》の句《く》を詠《よ》みかけますと、
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「弓張《ゆみは》り月《づき》の
いるにまかせて。」
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 と、頼政《よりまさ》があとをつづけました。
 なるほど評判《ひょうばん》の通《とお》り、頼政《よりまさ》は武芸《ぶげい》の達人《たつじん》であるばかりでなく、和歌《わか》の道《みち》にも達《たっ》している、りっぱな武士《ぶし》だと、天子《てんし》さまはますます感心《かんしん》あそばしました。

     三

 頼政
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