なわ》を出《だ》して渡《わた》されたので、お隣《となり》の国《くに》の使《つか》いはへいこうして逃《に》げて行きました。
三
しばらくすると、またお隣《となり》の国《くに》の殿様《とのさま》から、信濃国《しなののくに》へお使《つか》いが一つの玉《たま》を持《も》って来《き》ました。いっしょにそえた手紙《てがみ》を読《よ》むと、この玉《たま》に絹糸《きぬいと》を通《とお》してもらいたい。それが出来《でき》なければ、信濃国《しなののくに》を攻《せ》めほろぼしてしまうと書《か》いてありました。
殿様《とのさま》はそこで、その玉《たま》を手に取《と》ってよくごらんになりますと、玉《たま》の中にごく小《ちい》さな穴《あな》が曲《ま》がりくねってついていて、どうしたって糸《いと》の通《とお》るはずがありませんでした。殿様《とのさま》は困《こま》って、また家来《けらい》たちに御相談《ごそうだん》なさいましたが、家来《けらい》たちの中にもだれ一人《ひとり》、この難題《なんだい》をとく者《もの》はありませんでした。そこでまた国中《くにじゅう》へおふれを出《だ》して、曲《ま》がりくねった玉《たま》の穴《あな》に絹糸《きぬいと》を通《とお》す者《もの》があったら、たくさんの褒美《ほうび》をやると告《つ》げ知《し》らせました。これでまた国中《くにじゅう》のさわぎになりました。けれどやはりだれにも変《か》わった智恵《ちえ》の持《も》ち合《あ》わせはありませんでした。
すると、こんどもお百姓《ひゃくしょう》は穴倉《あなぐら》へ行って、おかあさんに相談《そうだん》をかけました。おかあさんは笑《わら》って、
「何《なん》でもないことだよ。それは、玉《たま》の片《かた》かたの穴《あな》のまわりにたくさん蜂蜜《はちみつ》をぬっておいて、絹糸《きぬいと》に蟻《あり》を一|匹《ぴき》ゆわいつけて、別《べつ》の穴《あな》から入《い》れてやるのです。すると蟻《あり》は蜜《みつ》の香《かお》りを慕《した》って、曲《ま》がりくねった穴《あな》の道《みち》を通《とお》って、先《さき》へ先《さき》へと進《すす》んでいくから、それについて糸《いと》もこちらの穴《あな》から向《む》こうの穴《あな》までつき抜《ぬ》けてしまうようになるのだよ。」
といい聞《き》かせました。
お百姓《ひゃくしょう》はそう聞《き》くと小踊《こおど》りをして、さっそく殿様《とのさま》の御殿《ごてん》へ行って、首尾《しゅび》よく玉《たま》の中へ絹糸《きぬいと》を通《とお》してお目にかけました。
殿様《とのさま》はびっくりして、こんどもお百姓《ひゃくしょう》にたくさん、御褒美《ごほうび》のお金《かね》を下《くだ》さいました。
お隣《となり》のお使《つか》いは絹糸《きぬいと》のりっぱに通《とお》った玉《たま》を返《かえ》してもらって、へいこうして逃《に》げていきました。その使《つか》いが帰《かえ》って来《く》ると、お隣《となり》の国《くに》の殿様《とのさま》も首《くび》をかしげて、
「信濃国《しなののくに》にはなかなか知恵者《ちえしゃ》があるな。これはうっかり攻《せ》められないぞ。」
と考《かんが》えていました。
こちらでも、さすがにこれで敵《てき》もあきらめて、もう来《こ》ないだろうと思《おも》っていました。
四
ところがしばらくすると、またお隣《となり》の国《くに》の殿様《とのさま》から、信濃国《しなののくに》へお使《つか》いが手紙《てがみ》を持《も》って来《き》ました。手紙《てがみ》といっしょに二|匹《ひき》の牝馬《めうま》を連《つ》れて来《き》ました。
「いったい馬《うま》なんぞを連《つ》れて来《き》てどうするつもりだろう。」とびくびくしながら、殿様《とのさま》が手紙《てがみ》をあけてごらんになりますと、二|匹《ひき》の馬《うま》の親子《おやこ》を見分《みわ》けてもらいたい。それができなければ、信濃国《しなののくに》を攻《せ》めほろぼしてしまうと書《か》いてありました。殿様《とのさま》はまた、連《つ》れて来《き》た二|匹《ひき》の馬《うま》をごらんになりますと、大《おお》きさから毛色《けいろ》まで、瓜《うり》二つといってもいいほどよく似《に》た馬《うま》で、同《おな》じような元気《げんき》ではねていました。殿様《とのさま》はお困《こま》りになって、また家来《けらい》たちに御相談《ごそうだん》をなさいました。それでもだめなので、また国中《くにじゅう》におふれを回《まわ》しまして、
「だれか馬《うま》の親子《おやこ》を見分《みわ》けることを知《し》っているか。うまく見分《みわ》けたものには望《のぞ》みの褒美《ほうび》をやる。」
と告《つ》げしらせました。
ま
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