なわ》を出《だ》して渡《わた》されたので、お隣《となり》の国《くに》の使《つか》いはへいこうして逃《に》げて行きました。

     三

 しばらくすると、またお隣《となり》の国《くに》の殿様《とのさま》から、信濃国《しなののくに》へお使《つか》いが一つの玉《たま》を持《も》って来《き》ました。いっしょにそえた手紙《てがみ》を読《よ》むと、この玉《たま》に絹糸《きぬいと》を通《とお》してもらいたい。それが出来《でき》なければ、信濃国《しなののくに》を攻《せ》めほろぼしてしまうと書《か》いてありました。
 殿様《とのさま》はそこで、その玉《たま》を手に取《と》ってよくごらんになりますと、玉《たま》の中にごく小《ちい》さな穴《あな》が曲《ま》がりくねってついていて、どうしたって糸《いと》の通《とお》るはずがありませんでした。殿様《とのさま》は困《こま》って、また家来《けらい》たちに御相談《ごそうだん》なさいましたが、家来《けらい》たちの中にもだれ一人《ひとり》、この難題《なんだい》をとく者《もの》はありませんでした。そこでまた国中《くにじゅう》へおふれを出《だ》して、曲《ま》がりくねった玉《たま》の穴《あな》に絹糸《きぬいと》を通《とお》す者《もの》があったら、たくさんの褒美《ほうび》をやると告《つ》げ知《し》らせました。これでまた国中《くにじゅう》のさわぎになりました。けれどやはりだれにも変《か》わった智恵《ちえ》の持《も》ち合《あ》わせはありませんでした。
 すると、こんどもお百姓《ひゃくしょう》は穴倉《あなぐら》へ行って、おかあさんに相談《そうだん》をかけました。おかあさんは笑《わら》って、
「何《なん》でもないことだよ。それは、玉《たま》の片《かた》かたの穴《あな》のまわりにたくさん蜂蜜《はちみつ》をぬっておいて、絹糸《きぬいと》に蟻《あり》を一|匹《ぴき》ゆわいつけて、別《べつ》の穴《あな》から入《い》れてやるのです。すると蟻《あり》は蜜《みつ》の香《かお》りを慕《した》って、曲《ま》がりくねった穴《あな》の道《みち》を通《とお》って、先《さき》へ先《さき》へと進《すす》んでいくから、それについて糸《いと》もこちらの穴《あな》から向《む》こうの穴《あな》までつき抜《ぬ》けてしまうようになるのだよ。」
 といい聞《き》かせました。
 お百姓《ひゃくしょう》はそ
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