う聞《き》くと小踊《こおど》りをして、さっそく殿様《とのさま》の御殿《ごてん》へ行って、首尾《しゅび》よく玉《たま》の中へ絹糸《きぬいと》を通《とお》してお目にかけました。
 殿様《とのさま》はびっくりして、こんどもお百姓《ひゃくしょう》にたくさん、御褒美《ごほうび》のお金《かね》を下《くだ》さいました。
 お隣《となり》のお使《つか》いは絹糸《きぬいと》のりっぱに通《とお》った玉《たま》を返《かえ》してもらって、へいこうして逃《に》げていきました。その使《つか》いが帰《かえ》って来《く》ると、お隣《となり》の国《くに》の殿様《とのさま》も首《くび》をかしげて、
「信濃国《しなののくに》にはなかなか知恵者《ちえしゃ》があるな。これはうっかり攻《せ》められないぞ。」
 と考《かんが》えていました。
 こちらでも、さすがにこれで敵《てき》もあきらめて、もう来《こ》ないだろうと思《おも》っていました。

     四

 ところがしばらくすると、またお隣《となり》の国《くに》の殿様《とのさま》から、信濃国《しなののくに》へお使《つか》いが手紙《てがみ》を持《も》って来《き》ました。手紙《てがみ》といっしょに二|匹《ひき》の牝馬《めうま》を連《つ》れて来《き》ました。
「いったい馬《うま》なんぞを連《つ》れて来《き》てどうするつもりだろう。」とびくびくしながら、殿様《とのさま》が手紙《てがみ》をあけてごらんになりますと、二|匹《ひき》の馬《うま》の親子《おやこ》を見分《みわ》けてもらいたい。それができなければ、信濃国《しなののくに》を攻《せ》めほろぼしてしまうと書《か》いてありました。殿様《とのさま》はまた、連《つ》れて来《き》た二|匹《ひき》の馬《うま》をごらんになりますと、大《おお》きさから毛色《けいろ》まで、瓜《うり》二つといってもいいほどよく似《に》た馬《うま》で、同《おな》じような元気《げんき》ではねていました。殿様《とのさま》はお困《こま》りになって、また家来《けらい》たちに御相談《ごそうだん》をなさいました。それでもだめなので、また国中《くにじゅう》におふれを回《まわ》しまして、
「だれか馬《うま》の親子《おやこ》を見分《みわ》けることを知《し》っているか。うまく見分《みわ》けたものには望《のぞ》みの褒美《ほうび》をやる。」
 と告《つ》げしらせました。
 ま
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