くに》の殿様《とのさま》に手紙《てがみ》が来《き》ました。あけてみると、
「灰《はい》の縄《なわ》をこしらえて見《み》せてもらいたい。それが出来《でき》なければ、信濃国《しなののくに》を攻《せ》めほろぼしてしまう。」
 と書《か》いてありました。その国《くに》は大《たい》そう強《つよ》くって、戦争《せんそう》をしてもとても勝《か》つ見込《みこ》みがありませんでした。殿様《とのさま》は困《こま》っておしまいになって、家来《けらい》たちを集《あつ》めて御相談《ごそうだん》なさいました。けれどだれ一人《ひとり》灰《はい》の縄《なわ》なんぞをこしらえることを知《し》っている者《もの》はありませんでした。そこでこんどは国中《くにじゅう》におふれを出《だ》して、
「灰《はい》の縄《なわ》をこしらえてさし出《だ》したものには、たくさんの褒美《ほうび》をやる。」
 と、告《つ》げ知《し》らせました。
 すると、何《なに》しろ灰《はい》の縄《なわ》が出来《でき》なければ、今《いま》にもこの国《くに》は攻《せ》められて、ほろぼされてしまうというので、国中《くにじゅう》のお百姓《ひゃくしょう》は寄《よ》るとさわるとこの話《はなし》ばかりしました。
「だれか灰《はい》の縄《なわ》をこしらえる者《もの》はないか。」
 こういってさわぐばかりで、一向《いっこう》にいい考《かんが》えは出ませんでした。
 お百姓《ひゃくしょう》はふと、「これはことによったらうちのおかあさんが知《し》っているかも知《し》れない。」と思《おも》いつきました。そこで、そっと穴倉《あなぐら》へ行って、おふれの出たことを詳《くわ》しく話《はな》しますと、おかあさんは笑《わら》って、
「まあ、それは何《なん》でもないことだよ。縄《なわ》によく塩《しお》をぬりつけて焼《や》けば、くずれないものだよ。」
 といいました。
 お百姓《ひゃくしょう》は、「なるほど、これだから年寄《としより》はばかにできない。」と心《こころ》の中で感心《かんしん》しました。そしてさっそくいわれたとおりにして、灰《はい》の縄《なわ》をこしらえて、殿様《とのさま》の御殿《ごてん》へ持《も》って行きました。殿様《とのさま》はびっくりして、御褒美《ごほうび》のお金《かね》をたんと下《くだ》さいました。
 とても出来《でき》まいと思《おも》った灰《はい》の縄《
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