親無《おやな》し。」
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 という和歌《わか》をお詠《よ》みになりました。
「しなてるや」というのは、片岡山《かたおかやま》という言葉《ことば》に冠《かぶ》せた飾《かざ》りの枕言葉《まくらことば》で、歌《うた》の意味《いみ》は、片岡山《かたおかやま》の上に御飯《ごはん》も食《た》べずに飢《う》えて寝《ね》ている旅《たび》の男《おとこ》があるが、かわいそうに、親《おや》も兄弟《きょうだい》もない、かなしい身《み》の上《うえ》なのであろうかというのです。
 するとその時《とき》、寝《ね》ていたこじきが、むくむくと頭《あたま》をあげて、
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「斑鳩《いかるが》や
富《とみ》の小川《おがわ》の
絶《た》えばこそ
我《わ》が大君《おおきみ》の
御名《みな》を忘《わす》れめ。」
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 と御返歌《ごへんか》を申《もう》し上《あ》げたといいます。
 歌《うた》の中にある「斑鳩《いかるが》」だの、「富《とみ》の小川《おがわ》」だのというのは、いずれも太子《たいし》のお住《す》まいになっていた大和《やまと》の国《くに》の奈良《なら》に近《ちか
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