波《なにわ》のお宮《みや》へおいでになって、それから大和《やまと》の京《きょう》へお帰《かえ》りになるので、黒馬《くろうま》に乗《の》って片岡山《かたおかやま》という所《ところ》までおいでになりますと、山の陰《かげ》に一人《ひとり》物《もの》も食《た》べないとみえて、見《み》るかげもなく、痩《や》せ衰《おとろ》えたこじきが、虫《むし》のように寝《ね》ていました。お供《とも》の人たちは、太子《たいし》のお馬先《うまさき》に見苦《みぐる》しいと思《おも》って、あわてて追《お》いたてようとしますと、太子《たいし》はやさしくお止《と》めになって、食《た》べ物《もの》をおやりになり、情《なさ》けぶかいお言葉《ことば》をおかけになりました。そして帰《かえ》りしなに、
「寒《さむ》いだろうから、これをお着《き》。」
 とおっしゃって、召《め》していた紫色《むらさきいろ》の御袍《おうわぎ》をぬいで、お手《て》ずからこじきの体《からだ》にかけておやりになりました。その時《とき》、
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「しなてるや
片岡山《かたおかやま》に
飯《いい》に飢《う》えて
臥《ふ》せる旅《たび》びと
あわれ
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